手段に過ぎないAI~何のために?を問い続ける自助努力を~ 


 
 
 
 
最新のAI活用事例を多様な領域で紹介する本書。AIがブームと呼ばれるような状況は収束を迎える段階に来ている。現代社会において、インターネットにアクセス出来ることにわざわざ感謝する人が減っているように、AIもただの「ツール」として社会に浸透し始める時期に突入していくだろう、と。
 
 
 
 
 
””昔のAIブームを経験した人は、今回もまたブームで終わるのではないかと思っている人も多いはずだ。今回のブームは本物なのか、今までのブームのように、期待だけで終わってしまうのではないかと。  ディープラーニングの本質は特徴をとらえ、概念を獲得するところにある。これは従来の技術では実現できなかったことであり、その意味では新しい世界が拓けたといえる。しかし、人間のように何もかも自動的に学んでくれるわけではない。皆がやがて、そうした限界点に気づき、過度に膨らんだ期待がしぼんでいく可能性は高い。  ブームとなったからには当然ながら、終わりは来る。筆者らはそろそろAIのブームを終わらせてもいいのではないかと、個人的に思っている。ブームは終わっても進化したAIは残る。AIの性能が大きく向上したことで、適用領域はかなり広がってきた。世界的なAIの技術開発に対する膨大なリソースの投入はこれからも続き、AIは進化を続けるだろう。その中から必ず新たな領域で利用され定着する、優れたAIが登場してくることは間違いない。  したがって、ブームが終わっても減滅期に入って手を引くのではなく、AIの真の姿を知ったうえで賢く使っていくことが、企業にとって今後の競争力に大きく影響してくるはずだ。AIを継続して育てることは重要である。3年かけて育てたAIを他社が模倣するには3年かかる。継続こそが力になるのがAIなのである。  たとえば、ゲーミフィケーションは一時大きなブームになったが、現在は下火になり、マスコミに取り上げられることも少ない。しかし、そうした周囲の風潮に流されることなく着実に導入を進めてきた企業は今、大きな効果をあげている。AIに対してもそれと同じ戦略を取るべきだろう。ブームが下火になったときにこそ、本当のチャンスがある。””
 
 
 
 
AIが仕事を奪うという類の悲観論に振り回されるでもなく、AIが人間の労働を不要にするという類の理想論にうつつを抜かしている場合でもない。目の前にある現実として、どう付き合っていくかを真剣に考え、学び、行動していくことで、ものすごいチャンスを手に入れることが出来る。
 
 
 
 
””技術進化は激しく、早い段階から準備しなければ、周囲から大きく後れを取ってしまう。誰も使っていない時期から始めれば、オンリーワンの先進的なサービスにつながるチャンスもある。積極的に新しい技術を触ってみる姿勢を持つことは大切だ。  ただし、繰り返しになるが、AIを目的化してはいけない。ポイントはあくまでも「AIの技術で、こういうことができないか」という形で考えることにある。この技術が世の中をどう変えるのかという議論から、もう一歩具体化して、身近な課題に近づけて考えてみて欲しい。バスワード化したAIのイメージに惑わされず、真実のAIの姿を正しく把握する。そのうえで、自分のビジネスに確実に新しい変化をもたらす要素の一つとして、しっかりと向き合い、その活用に取り組んでみて欲しい。本書がその一助になれば幸いである。””
 
 
 
AIに限らず、新たなトレンドが起きる時、ついつい傍観者になってしまったり、その言葉に踊らされ、本来「手段」であるべき対象を「目的化」してしまうということは、頭でわかっていても、なかなか避けられない現象の1つだと思います。
 
 
 
 
””適切な目的がAIの価値を決める  AI導入を考えている企業が最初に考えるべきなのは、AI導入により何をしたいのか、なぜAIを導入するのかという目的を明確にすることだ。そこを詰めないまま取りあえずAIを導入しようとしても、めぼしい成果を得られずに終わることになるだろう。  これは当たり前の話に聞こえるが、実際に目的が不明確なままAIの導入検討を進めてしまうケースは多い。よく見られるのは、経営層が他社で大きなインパクトをもたらしたAIの事例を聞きつけて、うちもAIを使って何かしなくてはならないと思い、部下にAI導入を命じるパターンである。部下は「今年度中にAIで何かしなくてはならない。御社ですぐにできることはないか」と、ITベンダーに相談をすることになる。  AIはもともと手段にすぎないが、現状ではこのように目的化してしまっていることが多い。きちんと「実現したいサービスのアイデアがある」「解決したい課題がある」という目的からスタートしないと単なる実験止まりになり、実際にビジネスで活用されるには至らないだろう。””
 
 
 
 
自分たちにとって、自分にとって、この技術をどのように活用することが出来るか、より一層に向き合い、チャレンジしていくことが肝要であると強く意識していきたい。
 
 
 
 
 
 
 
【抜粋】
 
””ゲーミフィケーション×AI  「ゲーミフィケーション」とは、ゲームの仕組みを導入することで仕事や勉強を夢中にさせ、モチベーションを高める方法論である。教育(エデュケーション)と娯楽(エンタテインメント)を合わせた「エデュテインメント」や、遊び(プレイ)と労働(レイバー)を合わせた「プレイバー」なども同様の趣旨の試みである。ゲーミフィケーションでは「ランキングやポイントをうまく取り入れて競争状況をつくり出す」「成功したらすぐにほめる」などの仕組みをうまく利用してモチベーションをあげている。  NTTデータでも、従業員向けにゲーミフィケーションサービスを提供できるシステムの開発を行っており、社員の教育やオフィス業務に適用してきた。ゲーミフィケーションの弱点は、やっていると飽きが出てくること、また、個人によってゲームの好みが違うことである。そこで、AIを使ってその人が夢中になっているかどうか推測し、楽しくなさそうならゲームのルールを変更したり、興味を持ちそうなコンテンツに切り替えたりできれば、ゲーミフィケーションの欠点を補うことができる。  コールセンターのオペレーター向けゲーミフィケーションでは、平均対応時間が短ければ短いほどポイントが多くもらえたり、対応の数をこなせばこなすほどポイントがもらえたりする。つまり、この例では原価削減を目的としたルールが設定されているのである。””
 
 
 
 
””ロボット上司の登場  先ほど説明したとおり、人的管理の領域でAIを使うメリットとして、自動化によるコスト削減、客観的な採用基準の確立の他に、高い公平性が挙げられる。職場ではどうしても、「自分のほうがよく働いているのに何で、あの人が仕切るのだろうか」「この人はいつもえこひいきされている」と、不満を抱く従業員が出てくる。このため、人事評価や、給料や昇進の決定は、人間の上司が行うよりもAIが行ったほうが、公平で納得感が高いとする声もある。  AIが上司の代わりになるというと違和感があるかもしれないが、調査会社であるガートナーは「2018年までに、300万人以上の労働者がロボット上司の指示を仰ぐようになる」という予測さえしている。  米国マサチューセッツ工科大学が行った、人間とロボットの共存に関する研究でも、AIが指示命令を行うほうが作業者の満足度が高まるという結果が出ている。この実験は製造現場で行われ、人間2人とロボット1台を3回に分けて作業をさせている。1回目は、すべてのタスクを1人の人間が割り振る。2回目はロボットが全タスクを振り分ける。3回目は、人間1人は自分のタスクを自分で割り振り、ロボットが残りのもう1人に対してタスクを振り分ける。結果は、2回目のロボットが全タスクを仕切るパターンが最も効率がよく、さらに被験者の満足度も最も高かった。  このような結果になった原因は、AIにより待ち時間や無駄がなくなり最適化された点と、ロボットがタスクを割り振ったため公平に感じた点の両方が考えられる。  ネガティブなコメントをするときにも、上司に「ここができていない」といわれるよりも、ロボットに指摘されたほうが客観的事実として受け入れやすかったり、逆に指摘が間違っていてもロボットだから仕方ないと許せたりする。このようにAIは人の感情に関する部分でも活躍していく可能性がある。
 
 
 
 
””AIは継続的に育てる必要がある  AIはパッケージソフトのように買ってきて導入すれば、すぐに成果を出せるものではない。クラウドで提供されているAIだとしても、導入する前に様々な作業が必要となる。実際にAIを動かすには、指定のフォーマットに合わせてデータを変換したり、AIの性能を劣化させるゴミデータを消したりする作業が必要になる。この作業には、それほど高度な技術や数学の知識は必要ないが、それでもうまく行うにはそれなりの経験が必要であり、時間もかかる。このため、手軽にクラウドサービスを始めるようなイメージでAI導入に臨むのではなく、AIを継続的に育てると考える必要がある。  案件によっても異なるが、簡単な実験を行うのに3~6ヵ月程度かかる。極端な場合、AIを入れたいがデータが揃っていないため、最初の1年間でデータを収集し、2年目にAIの開発と評価を行い、3年目に実システムを開発するといったスケジュールを立てることもある。””
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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