MORE from LESS(モア・フロム・レス) 資本主義は脱物質化する


2021年秋くらいに読んだ書籍。著者は『機械との競争』や『ザ・セカンド・マシン・エイジ』の共著者。どちらも、とても好奇心を刺激する書籍でした。

本書は、デジタル化を含めたテクノロジーの発展に伴い、金属や石油などの物質の消費量が、2000年をこえてから減少に転じている=脱物質化が始まっていることを明らかにした上で、これらの「①テクノロジー」、そしてそれらを使いこなすための「②資本主義」、資本主義の暴走、例えば公害などを抑制するための「③市民の自覚」、と「④反応する政府」(様々な社会変化に迅速かつ柔軟に対応できる政府)の4つがあれば、今後も、経済社会や自然も改善に向かうと説きます。

”テクノロジーの進歩、資本主義、市民の自覚、反応する政府。この4つをまとめて〈希望の四騎士〉と呼ぶことにする。このすべてが揃った国は人間と自然の両方とも、よりよい状況となる。どれひとつ存在しない場合、人間も自然も苦しむ。”

”〈希望の四騎士〉として、私はテクノロジーの進歩、資本主義、反応する政府、市民の自覚を挙げたい。4つの要素が揃っていると、私たちは地球に負担をかけずに豊かになれる。脱物質化で資源の消費を減らし、公害を減らし、ともに生きる動物を大事にしていくことができる。”

正直なところ、この世の中を、既存のマスメディアや、SNSを通じて観察しているだけでは、著者が主張するような希望的側面よりも、失望、絶望することの方が圧倒的に多い。しかし、ファクトフルネスのような書籍で、解説されている通り、幼い頃からの刷り込み、メディアのバイアスによって、世の中のマジョリティは、直感的に、世の中が良くなってきているとは感じにくい環境の中にいるということですね。

だからといって、人間はこのままの生活を続けていて良いという投げやりな主張でもなく。テクノロジー、資本主義を上手く活かしつつ、市民と政府次第で、希望を創っていけるという。まあ、それが難しいんじゃないか、というツッコミもありそうなんですが、自分自身が、地球市民の一人として自覚していくところから始めていこうと、改めて考えさせられる内容ではありました。

”資本主義は繁栄という花を見事に咲かせることができる。ただし、花を咲かせるには庭の手入れを怠ってはならない。社会の弱者の権利、財産、契約を守るための法律と裁判所の整備。暴力あるいは暴力的な支配の排除。そして徴税は歓迎されなくても、必要不可欠である。

”資本主義のすばらしいところは、エリート層だけではなく貧しい環境に生まれついた人々の暮らしもよくなることだ。資本主義が適切に機能すればどんな未来が待っているのか、スミスはマルクスやマルサスよりもはるかに明確に見通していた。”

”テクノロジーの進歩と資本主義がつくりだす好循環だけで、果たして私たちは地球に負担をかけずに繁栄していけるだろうか? ふたつの明快な理由から、それだけでは実現できない。第一の理由は経済学の初級講座で必ず学ぶ、公害という負の外部性だ。第二の理由は倫理の講座で扱われる内容領域、つまり動物をどう取り扱うか、市場での売買を禁じる対象についての検討だ。”

”あなたに共感します 〈希望の四騎士〉の第4番目は市民の自覚だ。たがいを、そして地球を大事にしようと自覚すること、よりよい方法でそれを実行するという自覚である。前者の市民の自覚について、スティーブン・ピンカーは著書『 21 世紀の啓蒙』で、前者の市民の自覚が増えている状況を「共感の輪」が広がるというイメージで表現している。ピンカーはあくまでも楽観的だ。「人にはもともと共感が備わっているからこそ、家族や部族の共感に留まらず、世界の人々と共感しあうことができる。冷静に考えれば、自分自身、あるいは所属する集団だけは特別な価値があるなどということはあり得ない。それを理解すれば自然と共感が生まれる。こうして、すべての人が世界市民としての権利を与えられているというコスモポリタニズムが広く受け入れられていく

”朗報が広く伝わっていかないのはなぜか。それにはいくつかの要因が関係している。ひとつには、人間は基本的に「負のバイアス」がかかりやすい。つまり、悪いニュースに強く影響され、よいニュースやどちらでもないニュースに比べて記憶に残りやすい。もうひとつの要因は、センセーショナルなニュースほど大々的に報道され、どうしてもネガティブな内容が強調されやすい。「悲惨な事件はトップニュースになる」というのは、使い古されたジャーナリズムのモットーだ。

”目指すところはあきらかだ。経済活動の脱物質化をさらに加速し、豊かになる過程をスピードアップする。そして公害など負の外部性と社会関係資本の減少に歯止めをかける。つまり、〈四騎士〉のうち資本主義とテクノロジーの進歩の組み合わせで〈第二啓蒙時代〉を推し進め、やはり〈四騎士〉のうち反応する政府と市民の自覚という組み合わせで資本主義を適切に抑制し、急速な変化がもたらす弊害に対処する。

第1章 マルサス主義者の黄金時代
第2章 人類が地球を支配した工業化時代
第3章 工業化が犯した過ち
第4章 アースデイと問題提起
第5章 脱物質化というサプライズ
第6章 なぜリサイクルや消費抑制は失敗するか
第7章 何が脱物質化を引き起こすのか--市場と驚異
第8章 アダム・スミスによれば――資本主義についての考察
第9章 さらに必要なのは――人々、そして政策
第10章 <希望の四騎士>が世界を駆け巡る
第11章 どんどんよくなる
第12章 集中化
第13章 絆の喪失と分断
第14章 この先にある未来へ
第15章 賢明な介入
結 論 未来の地球