思い込みを手放し「自信と謙虚さ」を両立させる


自分には「思い込み」があまりない!自分は次々と「思い込み」を手放すことが出来ている!と自信満々に言い切れる人、どれだけいるだろうか。言うまでもなく、年を取れば取るほど、この「思い込み」は、広く深く強く重くなっていく。

””この問題の一端は、思考の 怠惰 にある。人は概して「認知的倹約家」なのだという専門家もいる。私たちが既存の考え方に執着することが多いのは、そのほうが考え直すよりもずっと楽だからだ。 だが、それだけではない。再考を 躊躇 する原因は、私たちの心のもっと奥深いところにもある。再考すべきかもしれないと自問することで、目の前の世界が予測不可能になってしまう。再考するためには、これまでの事実が変わったかもしれないこと、以前は正しいと信じていたことが現在では間違っているかもしれないことを認めなければならない。信じているものを見つめ直すことで、私たちのアイデンティティが 脅かされる――つまり、自分の一部が欠けたような喪失感を覚える可能性もある””

この解説表現は腹落ち感満点でした。

””革新はやがて傲慢さに変容し、思考の柔軟性にとってカギとなる謙虚さが失われる。ところが、謙虚すぎると自己肯定感が低くなり、思考における確信を得られなくなる。そこで、確信と謙虚さのバランスが問題となる。””

筆者はこの「自信と謙虚さ、どっちを取ればいいんだ問題」に対して、「自分のやりかたに対する確信」と「自分自身に対する確信」に分ければ良いと諭す。自分自身に対しては、「自分は高い能力を持っているんだ」と確信し、自己肯定感を強く持ちながらも、同時に、自分のやり方や考え方に対しては、常に謙虚になり、こうすることで、自信と謙虚さのバランスを取る。一見すると矛盾する「自信と謙虚さ」を両立させることが肝要、と。

変化の激しい時代を生きるために、既存の考えを新たな観点から見つめ直すことがいかに大事であるか、思考柔軟性をどうすれば自分のものにできるか。”自分の考えに固執しない、余白を残しておく、能力を過信しない、謙虚→懐疑→好奇心→発見という再考サイクルを習慣化し過ちを喜ぶ、周りの人から学び続ける、建設的な対立を恐れない、科学者のように考える”言うは易し行うは難しですが、激しくためになる書籍でした。おすすめ。

書籍概要

世界的な組織心理学者が解き明かす
「思い込みを手放し、発想を変える」ための方法。

「知っているつもり」がもたらす知的な怠慢――。
学び続ける人の指針がここにある!(監訳者・楠木建)

【著者より】
人は疑うことの不快感よりも、
確信することの安心感を好む。
既存の考え方を新たな観点から
見つめ直すことがいかに大事であるか、
それを伝えるのが本書の目的である。

目次

Part1 自分の考えを再考する方法
Chapter1 今、自分の「思考モード」を見直せ ― あなたの中にいる牧師、検察官、政治家、そして科学者
Chapter2 どうすれば「思考の盲点」に気づけるか ― 「自信」と「謙虚さ」のバランスの取り方
Chapter3 「自分の間違い」を発見する喜び ― なぜ「過ちに気づく」ことはスリリングな経験なのか
Chapter4 「熱い議論」(グッド・ファイト)を恐れるな ― 「建設的な対立」の心理学

Part2 相手に再考を促す方法
Chapter5 「敵」と見なすか、「ダンスの相手」と思うか ― 議論の場で相手の心を動かす方法
Chapter6 「反目」と「憎悪」の連鎖を止めるために ― 相手の「先入観」「偏見」とどう向き合うか
Chapter7 「穏やかな傾聴」こそ人の心を開く ― 相手に「変わる動機」を見つけてもらう方法

Part3 学び、再考し続ける社会・組織を創造する方法
Chapter8 「平行線の対話」を打開していくには ― 分断された社会の「溝」を埋めるために
Chapter9 生涯にわたり「学び続ける力」を培う方法 ― 健全な懐疑心と探求心の育て方
Chapter10 「いつものやり方」を変革し続けるために ― 「学びの文化」を職場で醸成させる方法

Part4 結論
Chapter11 視野を広げて「人生プラン」を再考する ― 「トンネル・ビジョン」を回避するために

引用

””ところが、それが知識や見解となると話は違ってくる。人はそう簡単には信念を変えないものなのだ。心理学者はこれをSeizing and Freezing(獲得と凍結、答えが獲得されるとそれを保持しようとする欲求)と呼んでいる。人は、疑うことの不快感よりも、確信することの安心感を好む。私たちの思考は身体よりもずっと早くに柔軟性を失う””

””実際のところ、煮えたぎる鍋にカエルを投げ込んだら、瞬時に 火傷 を負って逃げ出す前に死にかねない。徐々に温度が上がる水の中に入れたほうが、不快感が増してきた時に飛び出す可能性が高い。  肝心なのは、ここだ。ものごとや状況を見直すことができないのはカエルではない。私たちのほうなのだ。一度聞いた話を真実として受け止めたら、もうそれを疑おうとはしなくなる””

””他者の考え方を変えたい時、自分の考え方を変えることを拒否していては、一歩も先に進まない。まずはこちらがオープンな姿勢を示し、自分の主張の問題点や相手の主張の一部を認めてみよう。そして、相手はどの点を考え直す意思があるのか尋ねてみれば、こちらが食わせ者でないことをわかってもらえるだろう。  他者に再考を促すには、説得力ある議論をするだけではなく、議論するための正しい動機があることを明確に示さなくてはならない。他者の正論を認め、譲歩することで、こちらが牧師や検察官や政治家のように、自分の主張を押し通そうとしているのではないことを証明できる””

””複数の心理学研究によると、たいていの場合、あなたを最もうまく説得して考えを改めさせることができるのは、 あなた 自身であるという。あなたは、最も納得できる理由を自分で選び、その決断に対して当事者意識を持つことができる””

””誰かから反論され、それを戦いとして受け止めた時、人は反撃、もしくは逃走する。だが、その状況をダンスとして見れば、前進や後退の他に、もう一つの選択肢が生まれる。すなわち、サイドステップだ。対話について対話を持つことで、意見の対立の原因から関心をそらして、話し合いを発展させることに意識を集中させるのだ。相手の怒りや敵意が増せば増すほど、あなたは相手との対話への興味や関心をより強くアピールするべきだ。   相手が感情的になった時、あなたの落ち着きは強さの証 となる””

””私たちがすべきは、聴衆のために考えるのではなく、聴衆に問いを投げかけることだ。同じ観点から問題を見つめるよう聴衆を 誘い、そして聴衆が自ら考えるように導く。討論を戦いの場とすれば、そこには勝者と敗者が存在する。だが、双方が討論をダンスと見るならば、手を取り合い、足並みを揃えて前進する方法を一緒に見つけていくことができるだろう。相手は何に主眼を置くのかを見極め、ほんの数歩のベストステップで歩み寄れば、双方にとって、よいリズムがきっと見つかるはず””

””誰かのモチベーションを向上させたい時、目の前にぶら下げるべきは金ではなく、その人の真価を認めている証である。管理者は有意義な(独創性、専門技能、相互の信頼関係、影響力を発揮し、強化し、促進できる)仕事を創造することにより、部下にやる気を起こさせることができる。そして、それに対する感謝の意として報酬を与えるといいだろう””

””地上にいる時、宇宙飛行士は星のことばかり――私たちの多くが星マニアだから――考えているわけだが、実際、宇宙で見る星は地球で見る時と全く同じだ。むしろ、驚くほど違うのは地球だ。地球の姿が世界観や人生観を変えてくれる。私が宇宙から地球を初めて眺めたのは、初乗船で出発後十五分ほど経過した時だった。手元のチェックリストから目を上げると、いつの間にか窓の真下に、一部分が太陽に照らされている地球があったんだ。私の足元あたりでアフリカ大陸が、まるで旅客機の下を流れる街のように動いていた。地球を九十分で一周すると、地球をうっすらと囲む青色の円光が見えた。その薄くて壊れそうな青い層の下に人類が生きていると思った時、宇宙からはっきりとわかったんだ。地球のこちらの端にいる人とあちらの端にいる人は相互に結ばれているのだと。人々を隔てる国境などないのだと。人類はその層を共有していて、その下に私たち皆が生きているんだ””

””固定観念を持つ人に「反事実的思考」 をしてもらうことだ。つまり、別の世界を想定し、そこに住んでいたら何を信じるかを考えてもらう。  心理学での反事実的思考とは、現実の状況がどのように異なった形で展開していたかを仮想して考えることをいう。ひょっとすると異なる状況では異なる見方をしたかもしれないと気づけば、人は今の固定観念を改める気になるのではないだろう か。  他者の反事実的思考を作動させるには、例えば、次のような問いを投げかけてみるといい。もし、黒人としてこの世に生まれていたなら、あるいはラテン・アメリカ人、アジア人、ネイティブ・アメリカンだったなら、あなたの固定観念は今とは異なっていただろうか? 大都市ではなく農場で、あるいは地球の裏側の国で育っていたなら、あなたの価値観は今とは違っていただろうか? 十八世紀に生きていたなら、何を信じていただろう?””

””異なる状況であれば、結論や信念も今とは異なっていたかもしれないと考えを巡らす時、人は謙虚になる。すると、それまで安直な考えに固執しすぎていたことに気づき、現在の否定的な見方を疑問視するようになるだろう。自分の見解を疑い、自問することで、これまで型にはめて見てきた集団について新たな興味を抱くようになり、結果として、意外な共通点を見つけるかもしれない””