少数の通念を捨てて現実を受け入れる者、新しい現実を自ら進んで探す者は、長期にわたり果実を手にする。~人口大逆転 高齢化、インフレの再来、不平等の縮小~


2022/6/29頃。

暗黙的にタブー視されていることは、時代ごと、地域ごと、文化ごとに、少なからず存在している。人口過剰と人口減少に関する議論も、その類の1つではないでしょうか。

地球全体で見れば、急増した人間の数が、これ以上増えることが好ましくないことは明らかであるにも関わらず、国家を主体(主語)とした場合、人口の現状は、国力の低下を意味することが多く、人口減少は悪で、どうすれば人口を増やせるか?という議論ばかりが目に付きます。

どうやって地球全体の人口爆発(人口急増)という課題を解決するかを議論する中で、人口を減らすという考え(論争)は、社会的にも政治的にも許されにくい。たとえば激しく非難された中国の一人っ子政策は、あまりにも人道的ではないと倫理的に捉えられることが、ほとんどではないでしょうか。

理由はどうあれ、意図的に人口減少を目指すことについて検討されることはめったにない。それどころか現在の日本のように、国の人口が減っているとそれは経済危機と見なされ、日本の人口減少が世界のロールモデルとして語られることはほとんどない。

本書は、かくして、人口が激減する、この時代において、ほぼ間違いなく(論理的に)インフレが起きると解いている。結果的に、不平等を埋めることに繋がるという視点も欠かせない。

また新たな視点として、日本のような特殊的労働市場ゆえに、日本人は、世界でも最も、仕事に対して、会社に対して、コミットメント、エンゲージメントが低いのではないか、と仮説を立てることが出来ました(日本人のリーダーシップやマネジメントに課題がある可能性を棚上げすべきではありませんが)

しかしながら、実際に、多くの日本人は、解雇される機会が極めて少ないため、失業経験がない・失業リスクがないことで、働けている有難みがないのではないか?したがって、日本人の民主性、個性に問題、課題があるのではなく、この制度に依拠した結果になっている可能性があるのではないかと仮定することが出来ました。

ただし、そもそも論として(逆説的に考えると)、日本人ゆえに、この制度(解雇がしにくいという世界でも稀有な制度)が存在しているという見方もがあるため、制度の問題として片付けることは出来ないかもしれませんが。もし、労働市場の流動性が高まるようなことになれば、日本人は、より働くことに対する有難みが生まれ、会社へのエンゲージメントが高まり、かつ、リスキリングはもちろん、学び続ける習慣をつけるのではないか、とも捉えることが出来るかと思いました。

https://amzn.to/3GQYsUG

さて、いずれにせよ、これからの世界は、暫くインフレが続くことは、ほぼ間違いなさそうです。ドラッカー先生が仰る未来についての考え方を思い出しました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「人口、年齢、雇用、教育、所得など人口構造にかかわる変化ほど明白なものはない。見誤りようがない。予測が容易である。リードタイムまで明らかである」(『イノベーションと起業家精神』)

 企業人、経済学者、政治家は、人口構造の重要性を口にする。ところが彼らは、自らの意思決定においては、人口構造に注意する必要はないとしているかのようだとドラッカーは指摘する。

 人口構造こそ、初めに分析し検討すべき要因である。国内外の政治経済で、先進国における少子高齢化と途上国における人口増大ほど決定的な要因はない。

 人口構造の変化そのものは予測不可能かもしれない。だが人口構造の変化には、リードタイムがある。

 変化は機会である。それに備える十分な時間もある。

 ところが、多くの人びとが人口構造の変化を機会とするどころか、事実としてさえ受け入れていない。その結果、少数の通念を捨てて現実を受け入れる者、新しい現実を自ら進んで探す者は、長期にわたり果実を手にする。競争相手が人口構造の変化を受け入れるのは、変化が顕在化した頃だからだ。

 「人口構造の変化が実りあるイノベーションの機会となるのは、既存の企業や社会的機関の多くが、それを無視するからである。人口構造の変化は起こらないもの、あるいは急速には起こらないものとの仮定にしがみついているからである」(『イノベーションと起業家精神』)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

実際に、問題が顕在化してから、人間は右往左往するもので。これは、本当に興味深く、悩ましい事実として受け入れ、対策していくべきことで、最たる事例として、人口動態の劇的な変化、この人口大逆転時代の中心地帯で生きている、40代前後より若い日本人にとっては、極めて大きな影響を受けるという厳しい現実から、目をそらしてはならないと、改めて痛感しました。

加えて、この問題は日本固有の問題でもなく。出生率の低下(=少子化)と寿命の上昇(=高齢化)で、日本の人口構成は勤労世代中心から老年世代中心へと劇的に変化しているが、中国や韓国などアジア諸国でも近い将来そうなることが、ほぼ間違いない未来として予測されている。こうした人口構成の大きな変化=「大逆転」をグローバル世界の文脈で分析する本書は、今後数十年に金利が上昇し、インフレ圧力が高まると予言している。

””2000年代以降の日本は、中国などの労働力が利用可能となって、また、グローバル化の進展で世界経済も活性化し、インフレが抑制された幸運な時期であったものの、今後は中国などでも人口の大逆転が生じるから、幸運な時代は終わり、世界全体でデフレ傾向からインフレ傾向への転換、金利の上昇とマイナス成長は避けられない。中国が高齢化して経済が停滞し始めると、日本経済はさらに厳しくなると示されている。””

””今後中国を含むアジア諸国では、急速な高齢化が進み、労働力が不足するようになると、先進国への輸出物価は上昇する。また、高齢者は生産をしないが、消費はするから、輸出に回せる商品が減ってグローバル化に歯止めがかかるのだ。””

二十一世紀に入って、日本の生産年齢人口(十五〜六十四歳)は大幅に減ったが、労働力人口は、女性や高齢者の労働参加で、逆に増えていることも原因としている。ただ、労働力率上昇にも限界があるから、日本も早晩インフレ経済に転換する可能性は高く、唯一考えられるデフレ要因は、AI(人工知能)やロボットが急速に労働者を代替することだ、と諭す。それがなければ、著者の予測通り世界はインフレ社会に大転換するだろう、と。

楽観的に考えれば、テクノロジーのチカラで、ある程度のインフレ圧力に対抗していく未来も考えられなくはないが、まさか、2022年に経験した円安圧力と潮流にあって、いとも簡単に、社会構造が劇的に変化してしまうようなことが、一朝一夕に出現してしまう可能性を悲観的に想像しておかざるを得ないのではないだろうか。

””なぜ、海外直接投資がもっと注目されないのか?  非常に説得力あるナラティブにもかかわらず、少なくとも日本を人口構成の観点から分析する時には、海外直接投資のストーリーは独立したトレンドとして取り扱われてきた。なぜか? 単純な推測だが、部分的には二つの理由が考えられる。  第一に、国内のデータが、レバレッジの解消と人口構成の変化という矛盾のないナラティブと整合性が高いので誰も疑問を差しはさもうとしないからで~””

””第二に、海外展開が日本の企業部門における会計上の利益に貢献しているようには見えないからである。Kang and Piao(2015)によれば、海外展開で得られた利益のほんの一部のみが日本に送金され、多くはさらなる海外展開の拡大のために海外で再投資されている。なぜ利益は本国に送金されないのか? 日本企業の目的の一つが安価な労働力を利用し海外市場を拡大することであれば、海外で稼いだ利益をさらなる拡大のために留保することが求められるのは当たり前のことだろう。海外での設備能力と雇用の驚くべき増加は、そのことが実際に起こったことを示している。さらに、日本の配当控除政策によって、企業は海外利益を本国に送金するインセンティブを持たない(「経済産業省白書2011」)。事業の海外展開は魅力があり何十年にもわたって積極的に追求されてきたが、日本企業は海外で得た利益を本国に送金しようとはしなかっ~””

””日本企業が自らを守るために戦略的に、そして目的を持って生産性の向上をめざして行動するのに伴って、企業の生産活動と雇用は日本の国内および海外の両方に新たに割り当てられた。こうした努力は、失われた 10 年からの脱出を可能にしただけでなく、世界のほとんどの先進国を上回る実績となる労働者一人当たり生産性を実現した要因として、認識される必要がある。  この間、日本企業は国内の特殊な労働市場規範のもとで活動しなければならず、労働力の減少にもかかわらず賃金上昇が生じないという現象に帰結し~””

””フィリップス曲線:なぜ、日本では減少する労働力が賃金上昇につながらなかったのか? 「不況期に失業が増加する欧米と違って、日本では失業はあまり増加しなかったが、代わりに賃金が大きく下落した」──黒田日銀総裁の2014年講演  この淡々とした簡潔な陳述の背景には非常に複雑な事情が隠れている。その複雑な事情が、ほとんどの分析が整合的な説明ができない経済的事実を解明する手がかりを与えてくれる。それは、労働力の減少がなぜ賃金上昇を引き起こさなかったのか、という疑問で~””

””世界が安価で効率的な労働供給で溢れかえっていた時、日本の労働力はすでに減少していた。そのため、製造業を中心とした日本の貿易財部門は生産拠点を海外、特に中国に移転した。これは、製造業の雇用が賃金の高い内部の仕事(insider jobs)から賃金の安い外部の仕事(outsider jobs)へとシフトしたことを意味し~

””一つの簡単なエピソードが事情をよく表している。日本の資産バブル崩壊後の最悪期(1993年)および世界金融危機の最悪期においても、日本の失業率はせいぜい5・5%までしか上昇しなかった。他のいかなる時期においても、日本の失業率が3%を超えて上昇したことはない。労働市場の調整スピードも驚くべき速さであった。GDP成長率は1989年の6%から1994年にはマイナス2%まで下落した。失業率は1990年の2%から1995年には3%まで上昇した。失業率がちょうど5・4%で最高点に達したのは2003年であった。それとは対照的に、米国では自ら生み出した住宅市場危機に際して失業率は不名誉にも 10%まで上昇した。労働市場から得られる明確な教訓は、日本経済において経済調整の対象とならない部分があるとすれば、それは雇用だということである。すなわち、フィリップス曲線は他の先進国よりもフラットであり、また日本では 常に フラットであり続けた、ということで~””

””日本の労働慣習の起源  第二次世界大戦が日本の労働市場を変えた。それまでは、上位の数名の従業員のみが長期雇用契約の恩恵を受けていた。その慣行は雇用を確保し忠誠心を高めるために、戦争中も維持されていた。戦後、その慣行が労働者の士気と忠誠心に与える効果を雇用者はすぐに認識し、直ちに標準的慣行となった。時間がたつにつれて、こうした慣行は広がっていき、長期雇用のみならず企業内教育、内部労働市場での昇進、年功序列に基づく賃金や昇進給付なども含まれるようになっ~””

””解雇を伴わない調整  日本の雇用は多くの労働者を解雇することによって素早く調整できないので、労働市場の調整は雇用構造の変化と、労働時間および賃金に対する容赦のない下方圧力によって行われた(図9・7参照)。日本的慣行である長期雇用、内部労働市場、さらに年功序列に基づく賃金などは、全体としてこの傾向を強め~””

””日本の 55 ~ 64 歳人口の労働参加率は過去数年間に加速度的に上昇してきており、現在 75%にまで達している。この数値を超えているのは、ニュージーランド、スウェーデン、アイスランドの3カ国のみである。   65 歳前の年齢集団で労働参加率が上昇しているのは日本だけではない。この一般的なトレンドには少なくとも二つの理由がある。第一に、寿命の延びに伴い事前に見込んだ貯蓄では不十分であることに多くの人々が気づいたことである。第二に、年金給付の減少(政府の財政負担を軽減するために)が一般化してきていることで~””

””4 なぜ欧米諸国は日本の後に続かないのか?  要するに、日本で起こったことはほとんどすべて、高齢化が進む欧米諸国には当てはまらないのである。  第一に、これから 30 年間に起こる世界の状況は、過去 30 年間とはまったく異なるものになる。世界は過去 30 年間の人口構成の追い風のもとで豊富な労働力に恵まれてきたが、これからの 30 年間は人口構成の逆風の中でもがくことになる。簡単にいえば、日本は国内の労働力が減少していた時にグローバルな脱出口を持っていたが、そのような選択肢は、世界の全製造業の集合体が同時に高齢化を迎える時代には存在し~””

””第二に、日本型の労働市場慣行は欧米諸国には応用できない。例えば、ユーロ圏には解雇に伴う深刻な経済コストが存在するが、日本のような社会的制約に直面する欧米諸国は一つも存在しない。その結果、欧米諸国では雇用が労働市場における主な調整弁である。それによって、賃金と労働時間により大きな調整の役割を要求する圧力が緩和されているので~””

””第三に、先進国においては、過去 20 年間に労働参加率がすでに上昇してきている。もっとも労働参加率は日本よりも低く、近づくにはまだ時間がかかるだろう。ほとんどの先進国において、労働参加率は年金給付水準に逆比例している。年金給付水準の高い国の労働参加率は低いので、そこで労働参加率を引き上げるためには年金給付を急速に削減する必要がある。年金給付額と労働参加率をさまざまに組み合わせることによって、日本を上回る変化への高い適応性を持つ先進国も将来には現れるであろ~””

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【目次】

第1章 イントロダクション

第2章 中国:歴史的動員の終焉

第3章 人口構成の大逆転と将来の成長に対する影響

第4章 依存、認知症、そしてやってくる介護危機

第5章 インフレの再来

第6章 人口大逆転における(実質)金利の決定

第7章 不平等とポピュリズムの台頭

第8章 フィリップス曲線

第9章 「それはなぜ日本で起こっていないのか?」:修正論者による日本の変容の歴史

第10章 世界的な高齢化を相殺できるのは何か? インドとアフリカ、労働参加、そして自動化

第11章 債務の罠:回避することはできるのか?

第12章 デット・ファイナンスからエクイティ・ファイナンスへの方向転換

第13章 将来の政策課題:高齢化と課税、金融・財政政策の衝突

第14章 主流派の見方に抗して

追記:新型コロナウイルス後に加速してやってくる理想的ではない未来

訳者あとがき

https://amzn.to/3GQYsUG