繰り返し読みたい。『シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法~ビジネスを指数関数的に~』


 

指数関数的な速度で劇的に変化する社会や時代に合わせ、飛躍的発展を遂げる企業の創り方について指南してくれている本書。具体的には、””コミュニケーションや意思決定の方法、情報が流れる構造、経営スタイルや哲学、ライフサイクルなどだ。また戦略や組織構造、社内文化、プロセス、運営、システム、人々、主要業績評価指標(KPI)など””様々な観点から、飛躍的な成長を可能とする企業と、それ以外の企業との差異について実例を交えて解説される。挑戦する分野、領域、業界を問わず、飛躍型企業を目指す上で、非常に参考になる内容が盛り沢山でした。

””飛躍型企業とは何者か  まずは定義から始めよう。 飛躍型企業 (Exponential Organization, ExO)  加速度的に進化する技術に基づく新しい組織運営の方法を駆使し、競合他社と比べて非常に大きい(少なくとも10倍以上の)価値や影響を生み出せる企業。  飛躍型企業は人海戦術や巨大な工場に頼るのではなく、IT技術を基盤にする。そのIT技術とは、これまで物理的に存在したものを非物質化・デジタル化して、オンデマンドで提供できるようにするものだ。””

【抜粋】

● 飛躍型企業の主な内部的・外部的性質を解説する。どう設計されているのか(あるいはされていないのか)、コミュニケーションや意思決定の方法、情報が流れる構造、経営スタイルや哲学、ライフサイクルなどだ。また戦略や組織構造、社内文化、プロセス、運営、システム、人々、主要業績評価指標(KPI)などの点で、飛躍型企業がどう異なるのかを見ていく。さらに私たちが「重要変革目標」と呼ぶ要素(詳細は後章)を持つことが、企業にとっていかに重要かを議論したい。それから飛躍型のスタートアップ企業をどう立ち上げるか、中小企業で飛躍型企業の要素をどう取り入れるか、また大企業にどう当てはめるかを解説する。  本書を理論書ではなく、むしろ飛躍型企業の創造と維持のための実用書にするのが、私たちの目標だ。変化が加速する時代に、生き残れる企業を生み出すにはどうすればよいのか、実践的ですぐに活用できる知識を提供しよう。

 

考えてみてほしい。いまネットに接続している機器は80億台だが、2020年にはそれが500億台になり、さらに10年で1兆台に達するのである。私たちはこれまでの技術の進化から判断して、情報革命の時代に突入してから30年か40年ぐらいが経過したと考えがちだ。しかし先ほどの数値から考えれば、私たちは道のりの1パーセントまでしか到達していない。「多くの発展がまだ残されている」というレベルではなく、発展そのものがこれから始まるのだ。

 

 

飛躍型企業は、情報をベースにした技術が指数関数的な急成長を遂げることを利用し、何倍もの出力を生み出せるのである。ウェイズのような飛躍型企業は、従来型の組織構造の裏表を逆にしている。資産や従業員を所有して直線的なリターンを期待するのではなく、外部のリソースを利用して目標を達成するのだ。たとえば彼らは、ごく少数の中核となる社員や施設しか持たず、柔軟性を維持している。そして製品デザインからアプリケーション開発に至るまで、あらゆる場面で顧客に協力を求め、オンライン・オフライン双方のコミュニティを活用する。インフラは持たず、既存もしくはいま生まれようとしているインフラを利用する。そして急速に成長するが、それは彼らが全力を尽くして市場を占領するからではなく、むしろ目標を達成するために市場の協力を求めるからだ。その良い例がメディウムである。彼らはユーザーに長文の記事を書いてもらうことで、雑誌ビジネスを一変させようとしている。

ラーシェイの考察を一歩進めると、指数関数的に進歩する現代の根本的な問いとは、「他に情報化できるものは何か?」ということになる。  外部資源にアクセスして情報化を進めれば、その成果として限界費用をゼロに近づけられる。情報を基盤とした飛躍型企業の祖父にあたる存在が、グーグルだと言えるだろう。グーグルはクローリングしたウェブサイトを所有しているわけではない。10年前は、グーグルはどのような収益モデルを持つつもりなのかと揶揄されたが、いまではグーグルの時価総額は4000億ドルにも達成している。ここに達するまでにグーグルがしてきたのは、基本的にはテキスト(現在は動画も含む)情報の分析だ。リンクトインとフェイスブックの時価総額はともに2000億ドルを超えているが、それも人間関係のデジタル化、すなわち情報化によって達成されたものだ。これから数年のうちに誕生する最も優れた企業は、新しい情報源を活用するか、これまでアナログだった環境をデジタル化することでビジネスを構築するだろう。

これまでの組織構造は、希少性を前提に設計してあった。所有という概念は、希少性に対しては有効だった。しかし豊富な資源があり、情報を基盤とした世界では、アクセスやシェアといった概念のほうが有効になる。

飛躍型企業にはすばらしいスケーラビリティをもたらす要因が2つある。第一に、彼らが提供する製品は情報を基盤としていること。ムーアの法則に従うため、「指数関数的に増加する」という情報の性質を利用できる。第二に、情報は自在に流れる性質を持つため、企業内の主要な機能を組織外に切り出せる。ユーザー、ファン、協力会社、一般市民といった人々に、機能を肩代わりしてもらえるのだ

● 野心的な変革目標(MTP)  その名の通り、飛躍型企業は従来から飛躍した考え方をするが、それには理由がある。小さく考えていては、急速に成長できる戦略などつくれないからだ。一度大きく成長できても、成長によってビジネスモデルが使い物にならなくなるため、何もしなければあっという間に路頭に迷うことになる。飛躍型企業は、常に大きな目標を持たなければならないのだ。

 

● 適切なMTPによる最も重要なメリットは、文化的なムーブメントの創出である。それはジョン・ヘーゲルとジョン・シーリー・ブラウンが「プルの力(引き出す力)」と呼んだものだ。MTPには心を鼓舞する力があるため、飛躍型企業の周囲には自然とコミュニティが形成され、それ自体が活動を始め、仲間意識や文化が生まれるのである。アップルストアの行列や、TEDカンファレンスの順番待ちリストを見るとよい。MTPは製品やサービスを熱狂的に支持するエコシステムを生み出し、エコシステムの中心にいる企業から、文字通り製品やサービスを「引き出す」ようになる。そして人々の間に当事者意識をもたらし、マーケティングやアフターサービス、さらにはデザインや製造といったプロセスとも協力するようになる。iPhoneを考えてみよう。iPhoneには無数の周辺機器や、ユーザーによって開発されたアプリケーションがあるが、iPhoneという製品を本当に「所有」しているのは誰なのだろうか?  MTPが引き起こすこうした環境は、さらに二次的な効果を生み出す。そのひとつは、開発チームが社内政治ではなく、外部に目を向けるようになることである。大企業の場合、社員が内向きになり、市場や顧客とのつながりが失われてしまうことが多い(硬直化した形で市場調査やフォーカスグループ調査が続けられることを除けば)。  現代のように不安定な世界においては、こうした姿勢は命取りだ。企業は常に外を向く姿勢を持たなければならない。さらに技術面や競争面での脅威をいち早く察知すべきなのは言うまでもない。もしグーグルで働いているのなら、常にこう問いかけなければならないのだ(彼ら自身が宣言しているように)──「どうすればもっと良い形で世界中の情報を整理できるのだろうか?」。シンギュラリティ大学では、何らかの転機が訪れるたびに、必ずこう問いかけている──「これは10億人の人々に良い影響を与えるものだろうか?」  優れたMTPをつくる上で絶対に欠かせないのが、「目標」である。サイモン・シネックの画期的な研究成果にならえば、目標とは次のような質問に答えるものでなければならない。
・なぜそれを実行するのか?
・なぜ私たちの会社は存在しているのか?

「ポジティブ心理学」で有名な心理学者のマーティン・セリグマンは、幸福感を3つに分類する。楽しい人生(快楽的で表面的)、良い人生(家族や友人たちとともに過ごす)、意味のある人生(生きる意味を見つけ、自我を超越し、より良い目的のために生きる)の3つだ。調査によれば、ミレニアル世代(1984年から2002年の間に生まれた若者たち)には生きる意味や目的を見出そうとする傾向がある [注3] 。世界的に見ても、彼らは高い意識を持ち、消費者、従業員、投資家といった立場から、高い意識を持つ企業を求めるようになっている。つまりMTPを掲げ、自らの信条のもとに行動するような企業だ。今後は個人も企業と同じようなMTPを持つようになり、両者が重なりあったり、並列して存在したりするようになるだろう。

● ところがいまだに多くの企業が、リーダーの直感で行動を決めている。これは驚きであると同時に、残念なことだ。彼らもデータを使って考えることはあるが、埋没費用のバイアスから確証バイアスに至るまで(詳しくは後で整理)、様々な自己欺瞞に陥りがちだ。グーグルの成功の理由のひとつは、採用でも他社と比較にならないほど徹底的にデータを駆使したことだ。

● 飛躍型企業の多くは、「OKR」メソッドを導入している。OKRとは「目標と主な成果(Objectives and Key Results)」の略で、インテルCEOだったアンディ・グローブが開発し、その後1999年にベンチャーキャピタリストのジョン・ドーアがグーグルに導入した。OKRでは個人、チーム、会社全体の目標とその成果を、オープンかつ透明性の高い形で追跡する。『インテル経営の秘密』(早川書房、1996年)の中で、グローブはOKRを次の2つの質問に答えるものと説明している。 1 自分はどこに向かおうとしているのか?(目標) 2 その目標に近づいていることをどう把握するのか?(前進していることを示す主な成果)

 

● 飛躍型企業では、OKRとあわせて評価指標のダッシュボードが、パフォーマンス測定のデファクトスタンダードになりつつある。会社全体、チーム、個々の社員も、この形で把握するのだ。たとえばグーグルではすべてのOKRを社内で公開しており、誰でも確認できる。

● 自律型組織(A)  本書では自律型組織とは、自らを組織する力があり、多様なバックグラウンドを持つ人々が集まる、一定の権限を委譲されたチームと定義する。ゲーム制作会社のバルブソフトウェアは、非常にユニークな企業だ。330人のスタッフがいるが、伝統的な組織構造やレポートラインはなく、肩書きや定期的なミーティングもない。その代わり、同社は優秀で自発的に行動できるイノベーション志向の人材を雇い、本人に参加するプロジェクトを選ばせる。また、新しいプロジェクトを立ち上げることも奨励している(MTPに反するものでない限り)。自律型組織は、「承認の要らないイノベーション」を実現する鍵になる。  幅広い人材が集まる小規模で独立したチームで業務を回すというアプローチは、自律性を究極まで追求するものと言えるだろう。この仕組みはバルブの中でうまく機能している。従業員ひとりあたりの売上は他のゲーム制作会社を上回り、従業員は状況に応じて役割や活動を変えられる。こうした組織構造は、オープンで社交的、他人を信頼する社内文化を生み、従業員の満足度を高めている。バルブは自分たちのやり方に大きな自信を持っており、業務マニュアルをオープンソース化し、誰でも(競合会社でさえも)閲覧できるようにしているほどだ。

●テレワークからアウトソーシングへ、そして水平型組織、バーチャル組織へと、職場での自律性を高める流れが、明確な形で進んでいる。従来のようなトップダウン型で重量級の管理をする体制は、OKRのようにシンプルで、軽量級の管理体制に替わっていくだろう。また飛躍型企業の多くでは、会社を部門に分けて中間管理職が管理するという形式ではなく、幅広い人材が集まる自律型のチームに権限委譲する組織になっている。さらに、自発的で起業家的な精神を持ち、インターネットとゲームスキルで武装したミレニアル世代は、変化への対応力よりも効率性を重視する従来型の階層組織にますます反発するようになっている。

あらゆる企業が答えなければならない質問は、「自社が飛躍型企業のように見えるか」どうかではなく、「どこまで飛躍型企業を実現できているか」である。飛躍型企業の概念をどこまで組織内に定着させているか? 自律性やソーシャル技術をどこまで日常業務で活用できているか? ダッシュボードからインターフェースに至るまで、適切なツールを有効活用できているか? リスクを積極的に取り、実験や失敗を肯定しているか? といった具合だ。  こうした質問を自分自身で考えなければならない──1回だけでなく、毎月、あるいは毎週考えなければならない。それが飛躍型企業へと成長し、維持し続けるために必要なことだ。

 

● これは信頼に基づいて組織を動かす「信頼のフレームワーク」と言えるだろう。飛躍型企業がこうしたフレームワークを利用するもうひとつの理由は、急速に変化する世界では、予測可能で安定した環境などというのは幻想であるからだ。予測可能なものはAIやロボットによって自動化され、人間の手に任されるのは予想できない状況である。その結果、労働の本質が変わりつつあり、より自発的かつ創造的に働くことがすべてのチームメンバーに求められる。同時に、チームメンバーは会社からこれまで以上に信頼されることを希望する。

● ウーバーCEOのトラビス・カラニックは、2013年にパリで開催されたカンファレンス「ル・ウェブ」で、「自分が何を目指しているのかをきちんと理解した上で、ビジネスパーソンとしてではなく個人として、自分に合うスタートアップのアイデアや目標を見つけなければならない」と語っている。また、米国の作家であり、哲学者でもあるハワード・サーマンは、同じ意見を次のように表現している。「世界には何が必要なのかと考えるだけでは不十分だ。自分は何に夢中になれるのかと考え、それに取り組みなさい。世界に必要なのは、いきいきと活躍する人々なのだから」

● ドロップボックスの創業者であるドリュー・ヒューストンも、こうした意見に同意する。「最も成功するのは、自分が大切だと感じる問題にとりつかれたように取り組む人々だ。彼らの姿は、テニスボールを追いかける犬を彷彿とさせる。成功と幸福を手にするチャンスを高めるためには、自分自身のテニスボールを見つけなければならない。自分を先へと引っ張っていってくれるような何かを」

● MTPを見つける過程は、小説のように感じられるだろう。次の質問を自分自身に問いかけてみるとよい。
・自分が本当に関心を持っているものは何か?
・自分は何をする運命にあるのか?  さらに次の2つの質問を考えてみると、自分の情熱を見つけるプロセスを加速できるだろう。
・もし絶対に失敗しないとしたら、何をするか?
・もし今日10億ドルが手に入ったら何をするか?

● 企業が犯してしまいがちな失敗は、ある領域で優れた結果を出している人物を別の領域に移し、同じく優れた成果を期待するというものだ。たとえばオプティマイザーにエバンジェリストとしての役割を命じる、といった具合である。両者に求められる気質やスキルは全く異なる。しかし優秀なオプティマイザーがエバンジェリストとして大失敗する光景を目にしても、マネジャーにはその理由がわからない。ここで必要なのは、社内の独自の資産や能力(新市場に参入する際の優位性となる)を深く理解し、過去のルールや習慣を破壊するようなエバンジェリストを社内で探して、彼らに既存組織の片隅で新しい飛躍型企業を立ち上げるように命じることである。

● ザッポスはコミュニティ管理に多大な時間とコストを費やしており、真のソーシャルビジネスを立ち上げることに成功している。誰かがソーシャルメディア上でザッポスのファンだと公言すると、同社はファン専用の特別な対応をする。するとすぐに双方向のつながりとなり、ザッポスはこれを「ライク─ライク」の関係と呼んでいる。そしてファンは、より強くザッポスや同社の製品と結びつくようになるのだ。

 

 

● 将来的には、企業内で最重要視される指標はROI(Return on Investment)ではなく、ROL(Return on Learning)になると私たちは考えている。カイル・ティビッツは最近、この考え方を従業員個人のレベルにも当てはめ、次のように語っている。「『普通の仕事』ではなくスタートアップで働くことで得られる最も価値のある対価とは、極めて高い学習率(Rate of Learning)を得られることだ」

● テクノロジーの民主化によって、個人や小さなチームでも自らの情熱を追い求められようになった。ドローン、DNA合成、ビール醸造がその象徴だ。飛躍型技術を使うコミュニティによって、新たな経済的機会が大規模に現れ、近い将来新しい仕事が多く生まれるはずだ。それはいまの私たちの仕事とは、まるで違ったものになる可能性が高い。  間もなく私たちは、「仕事は何をしているのですか?」という質問の代わりに、「どんなことをして生活されているのですか?」と尋ねるようになるだろう。「新たなカンブリア爆発」は、すでに始まっている。

 


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