未来は変えられる。運命なんてものはない。自ら作り上げるものだ。~AI時代の勝者と敗者~


 

 

 

2~3年前の自分が、ここまで多岐にわたる技術的変化の数々に対して、ほとんど何も準備することが出来なかったことに強い後悔を覚えている。確かに小さな兆しは、そこかしこに存在していた。必死に沢山のことに興味を持ってきたつもりだった。何十冊と慣れないタイプの書籍を読んできた。にも関わらず、何らかの具体的な仕込みがあったわけでもなく、ゆえに何らかの果実を手にしたわけでもない。つまり、「知っている」だけでは役に立たない。いかに自分が知識を行動に落とし込めていないかを痛感せざるを得ない事態が、この身の上に降り掛かってくる。

 

しかしまた同時に、もしも、この急激な社会変化を軽視していれば、「後悔」することさえなかったのかもしれない、とも思う。相当数の未来予測系書籍、最先端テクノロジー系書籍をマークしてきたからこそ、自分の不遜さを猛省することが出来ているとも言える。「まだ時間がある。自分は大丈夫。人間らしい仕事は残るはず。」今の自分には、その種の楽観的なスタンスよりも、予測不可能とも思える指数関数的な変革の時期に、ある程度の悲観的な態度で、自分の人生や自分たちのチームに責任を持つべきであろうと考えを改めるべきかもしれない。

 

 

””自動化は、人間の仕事を奪っていく。体系化できる仕事ならすぐにコンピュータに置き換え、人間の仕事を徐々に削り取っていく。コスト削減だけを目的にしており、管理者は現状以上の仕事をしようとは考えない。対照的に拡張は、人間と機械が個々に行っている仕事を、両者が協力してさらに発展させていく方法を探る。その意図は、コストも手間もかかる人間の仕事を減らすことにはない。人間の仕事の価値をこれまで以上に高めることにある。””

 

 

””今日、機械の台頭を怖れている知識労働者は多い。彼らの仕事を奪おうとするこの前例のないツールの可能性を考えれば、不安に思うのも当然だろう。だが、身のまわりで大規模な変化が展開されていたとしても、自分にはどうしようもないと考える必要はない。私たちが取るべき手段はある。私たち自身が優秀なものに仕立て上げた機械と新たなプラスの関係を築けるかどうかは、私たち次第である(一人ひとりという意味でも組織という意味でも)。人間と機械の力を組み合わせれば、それぞれの職場もこの世界も、かつてないほど過ごしやすい場所にできるのだ。””

 

 

”” AI時代の到来を恐れることはない。むしろ機械の進化によって私たちはより人間らしい生き方を享受できると考えるべきである。しかしそのためには、学習から得た知識だけでなく、経験から身につけた感性をより豊かにする努力が必要である。そしてスマートマシンが「人の仕事の自動化」のためのものではなく、「人の能力の拡張」であるととらえることにより、各々にとってのAI時代の勝者となるための道標が見えてくるであろう。””

 

 

今では、機械に取って代わられにくい「人間らしい」仕事に固執するよりも、上手く機械と協力していく道を選ぶべきという主張が最も腹落ちする。本書は、人間と機械が協力し、お互いの能力を発展させる方法を解説してくれる。機械に仕事を奪われるという思考停止的な論調で終えず、いかに機械と協力し、人間の仕事の価値を高めていくか、真剣に向き合わせてくれる。「人間らしさ」を追求するだけでなく「機械らしさ」を学び、実際に協力方法を模索し、実践していくことで、次の2~3年後には、「ああ、あの当時(2~3年前)、あのような決意をし、学び続け、行動し続けられたおかげで、いくつも仕込み、いくつもの果実を手に入れることが出来ている」そのように発言できるようありたい。

 

 

 

””スマートマシンの導入がプラスの結果をもたらすと考えたい。それには、現状への危機意識を高め、結果がプラスになるような決断を下すことが重要だ。ボストロムは、「解決するチャンスが何度も巡ってくるわけではない」から、すぐに重大な選択をしなければならないと考えているようだが、筆者はそうは思わない。一般的に、変革の時期の混乱を最小限に食い止めるには、長い時間をかけて変化させることが必要になる。カリフォルニア大学バークレー校でAIを研究するスチュアート・ラッセルは、スーパー知能を持つコンピュータは人間にとって脅威になるかと尋ねられ、こう答えている。「人工知能は、天気のように、晴れればいいなと思いながらただ眺めているだけのものとは違います。それがどんなものになるかは、私たちが決めるのです。したがってAIが人類にとって脅威となるかどうかは、私たちがそうするかどうかによります」。ラッセルは、楽観的な考え方をしているわけではない。AIを脅威としない方向へ進むよう呼びかけているのだ。””

 

 

 

The future is not set.
There is no fate but what we make for ourselves.
(Terminator 2 / Kyle Reese)

「未来は変えられる。
運命なんてものはない。自ら作り上げるものだ。」

(映画「ターミネーター2 特別編」/カイル・リースのセリフより)

 

 

 

 

 

目次

 

序 章 あらゆる仕事で機械との競争が始まった
スマートマシンの発展により、知識労働者の仕事が危機にさらされている。

第1章 私たちの仕事はコンピュータに奪われるのか?
ほとんどの仕事で機械のほうが有能になる。この脅威を真剣に受け止めるべきだ。

第2章 スマートマシンはどのくらい優秀なのか?
多くの面で機械のほうが人間より有能になっている。だが、人間の役割はまだある。

第3章 「自動化」ではなく「拡張」を
大切なのは、どの仕事が機械に奪われるかではなく、機械を使って人間はどんな仕事ができるかである。

第4章 ステップ・アップ
──自動システムの上をいく仕事 大局的に見られる人、十分なデータなしで判断できる人は、今後も機械よりも高いレベルで問題を解決する。

第5章 ステップ・アサイド
──機械にできない仕事 機械が得意でない作業を人間がする。人間との交流、人間への説明や説得など。

第6章 ステップ・イン
──ビジネスと技術をつなぐ仕事 機械の仕組みを理解し、監視し、改善する仕事は、人間の仕事として残っていく。

第7章 ステップ・ナロウリー
──自動化されない専門的な仕事 機械を導入しても経済的でないニッチな専門分野には、人間が活躍する仕事が残る。

第8章 ステップ・フォワード
──新システムを生み出す仕事 技術力を持ち、次世代のスマートマシンをつくる仕事は今後もなくならない。

第9章 「拡張」をどう管理するか?
企業にとって拡張は、競争を勝ち抜くのに欠かせない現実的な唯一の戦略である。

第10章 ユートピアかディストピアか
──スマートマシンにどう適応すべきか 拡張を重視すれば、教育政策や雇用創出政策なども変わる。