心躍る。『ボールド 突き抜ける力 超ド級の成長と富を手に入れ、世界を変える』


 

最近、心躍り出す機会が増えている。窮地に立たされていても、見方を変えればチャンスしかないと信じられる。このような信念を支える一つの契機となっているのは、本書の中でも繰り返し語られる指数関数的な変化が起き続ける時代背景にある。AIやロボティクスなど分かりやすいテクノロジーだけでなく、様々な分野でエクスポネンシャルな進化が起きている。劇的な変化が起きる分野に直接的に関わるだけでなく、その結果、生み出された社会において、必要とされるであろう人間の欲求、市場のニーズと、どう向き合っていくかを考えることほどエキサイティングなことはないなあと、ワクワクしています。

”””本書は今日のエクスポネンシャル起業家、すなわち超ド級の成長と富を手に入れ、世界を変えたいと願うすべての人のためのマニフェスト(決意表明)であり、マニュアル(手引き)である。
加速するテクノロジー、スケールの大きい発想、クラウドの力を生かすツールの活用に関する参考資料である。あなたが起業家なら(気持ちのうえでは起業家というケース、あるいはすでに会社を興しているケースのどちらでもいい)、
住む場所がシリコンバレーか上海か、大学生か多国籍企業の社員かに関係なく、本書が役に立つだろう。本書には意欲や能力を本気で高め、とびきり壮大な志を抱き、世界に影響を与えるための方法が書いてある。
(「序章」より)”””

 

 

【抜粋】
● とてつもない衝撃、劇的な変化、それに続くすばらしい再生という物語は今日の状況、特に産業界のそれと驚くほど似ている。まさに今、新たな小惑星が世界に衝突し、巨大で動きが鈍い者を消し去り、動きが速く機敏な者の前には洋々たる前途が拓けている。今回の小惑星の名は「エクスポネンシャル・テクノロジー」という。この名を聞いたことがない人でも、その影響は目の当たりにしているはず

● ここで重要なのは「エクスポネンシャル・テクノロジー」とは指数関数的な成長曲線を描くすべての技術を指しているということだ。すなわち一定期間ごと(半年ごと、1年ごとなど)に性能が倍増していく技術であり、その最たる例がコンピューティング技術である。モンゴルのどこかで現在使われているスマートフォンは、1970年代に最も性能の高かったスーパーコンピューターと比べて価格は100万分の1、性能は1000倍である 。これが現在の世界におけるエクスポネンシャルな変化の姿である。

● イェール大学教授のリチャード・フォスターによると、1920年代にはS&P500企業の社歴は平均67年に達していた(注14)。だがもはやそんな時代ではなくなった。今日、連鎖反応の最後の三つのDによって、あれよあれよという間に企業が解体され、産業が破壊されるようになり、その結果、21世紀のS&P500企業の社歴はわずか15年に縮まった。バブソン・ビジネススクールの研究によると、今から10年後には今日の上位企業の4割以上が消滅しているという(注15)。「2020年には、S&P500企業の4分の3以上をまだわれわれが聞いたことのない企業が占めるようになるだろう」とフォスターは語っている。

● エクスポネンシャルなロードマップを読み解く  心理学者のエドウィン・ロックは著書『プライム・ムーバーズ (注1) 』で、スティーブ・ジョブズ、ウォルマート創業者のサム・ウォルトン、ジャック・ウェルチ、ビル・ゲイツ、ウォルト・ディズニー、J・Pモルガンをはじめとする傑出したビジネスリーダーの中核をなす精神的特性を挙げている。彼らの成功に寄与した要因は多々あるが、ロックは全員に共通するカギとなる特性を突き止めた。「ビジョン」である。 「凡人と彼らの最大の違いは、先を見通す能力だ」とロックは語っている (注2) 。「過去の栄光に安住し、昨日うまくいったことが今日も明日もうまくいくと考える会社は必ず失敗を犯すことをデータは示している。傑出したリーダーはみな、はるか先を読み、そのビジョンに向かって迷いなく組織を導いていく。スティーブ・ジョブズが良い例だ。ジョブズは『そんなことは不可能だ』と言う人間には、さっさと見切りをつけた。未来のビジョンがあり、まったくぶれなかった。

● 本書の重要な目的の一つは、ある技術が起業家の参入に最適な状態になるという決定的タイミングを指し示すことだ。ワトソンがクラウドに置かれ、誰もが利用できるオープンなAPIと結びついたというのは、まさにそうしたタイミングの始まりを意味する。モザイクのときのようにインターフェースが爆発的成長を遂げ、AIがさまざまな事業に使われるようになり、潜行段階から破壊的成長への移行が始まる可能性がある。エクスポネンシャル起業家よ、ぼやぼやしている場合ではない。

● レイ・カーツワイルはこう指摘する。 「まもなくわれわれはAIに、電話での会話をすべて聞かせるようになるだろう。さらにはメールやブログを全部読み、会議の内容を傍聴し、ゲノムスキャンの内容をチェックさせ、食事や運動量を監視し、さらにはグーグルグラスのフィードまで見る許可を与えるようになる。そうすることによってパーソナルAIは、あなたが必要と感じる前に必要な情報を提供できるようになる。

● あなたのありふれた一日を想像してみよう。朝、ベッドから起きて最初にすることはなんだろう? そう、歯磨きだ。今の歯磨き粉はほとんどが白いフレーバー付きのものだが、合成生物学によってあなたの口臭を引き起こしている微生物に一番効果的な歯磨き粉をカスタムメイドできるようになる。「それだけではない。歯磨きの手を止めた後も、ずっと口内を掃除し続ける超微粒子を含めることもできる。感染症、ガン、糖尿病を感知したら色が変わるようにしたり、微生物叢のバランスを整えるようなプロバイオティック(体に良い働きをするバクテリア)を発生させるようにしたりすることもできるかもしれない。合成生物学はこれをすべて可能にする。しかも歯磨きという朝一番の作業だけでこれだけの変化が起きるのだ」

●エクスポネンシャル起業家として成功しようと思うなら、この可能性を理解することが必要だ。考えてもみてほしい。ほんの20年前なら、コンピューター・アルゴリズムによって風変わりな名前の会社(ウーバー、エアビーアンドビー、クワーキー)が20世紀型の企業を破壊してしまうなどという話は絵空事に思われただろう。15年前ならスーパーコンピューターを使いたければ、自分で買うしかなかった(クラウド経由で1分だけ借りるということはできなかった)。10年前には遺伝子工学は大規模な政府や企業に限定されており、3Dプリンティングといえば高価なプラスチック製のプロトタイプをつくる道具でしかなかった。7年前には起業家の手に入るロボットといえば掃除ロボットの「ルンバ」ぐらいで、AIと言えば音声付きのATMぐらいで、高速道路を走る自動運転車など夢のまた夢だった。そして2年前には100歳を超えて生きるというのはとんでもないことに思われた。こう考えると、現在の状況がどれほどすさまじいものかわかるのではない

● 確かに、これはとんでもない状況である。今日のエクスポネンシャル起業家は(スティーブ・ジョブズの表現を借りれば)「宇宙にへこみをつくる」ための手段を十分すぎるほど手にしている(注62)。かつてないほどの速さで10億ドル企業が誕生し、数兆ドル規模の産業が生まれようとしている。ただエクスポネンシャルの世界で腕試しをする前に踏んでおくべき最も重要なステップは、自分にはそれができるという確信を持つことだ。だから次の3章では、エクスポネンシャル起業家の装備として欠かせないツールに目を向ける。

高みを目指すのは、技術的に難しいというだけではない。心理的にもきわめてハードルが高い。本書のためにインタビューしたイノベーターはみな口をそろえて、メンタルの重要さを指摘した。正しいマインドセットを持たない起業家が成功する見込みはゼロだ、と。  まさに同感だ。モノの考え方がすべてである。できると思う人はでき、できないと思う人はできない。

目標を設定することによってパフォーマンスと生産性は11~25%向上することを発見した 。かなりの増加幅と言える。8時間労働を基準とすると、作業に心理的な枠(つまりは目標)を当てはめるだけでプラス2時間分の労働を引き出せることを意味する。とはいえ、どんな目標でもよいわけではない。ラサムはこう指摘する。 「われわれの研究の結果、モチベーションや生産性を最大限高めるには、大きな目標ほど効果的であることがわかった。大きな目標は、小さな目標、中くらいの目標、曖昧な目標のいずれをも大幅に上回る成果をあげた。最終的に重要なのは集中力と粘り強さで、この二つがパフォーマンスを決定する最も重要な要因だ。大きな目標ほど作業者を集中させ、粘り強くする。この結果、作業がより効率的になり、失敗しても再び挑戦しようという意欲が高まる」  これはエクスポネンシャル起業家にとってきわめて重要な情報である。どんな事業でも立ち上げるのは大変だ。ある産業を破壊する意図を持って事業を立ち上げるのは、恐ろしいことこのうえない。しかしロックとラサムの研究は、恐怖を乗り越えるための知られざるテクニックの存在を示唆している。大きな目標を設定することは、集中力やモチベーションを高め、実際にこうした目標を達成するのに役立つのだ。

● シリコンバレーの非公式なスローガン「早く、たくさん、前のめりに失敗する」だ (注8) 。  突き抜けた成功を狙うベンチャー企業、特に本書が説くような世界を変えるタイプのベンチャー企業には、このような実験的アプローチが求められる。ただほとんどの実験は失敗に終わるので、真の進歩を遂げるには山ほどのアイデアを試し、実験の間隔を縮め、結果から導き出された知識を蓄積していかなければならない。これが素早い反復

●「デザイナーのチームに何年もかけて誰もが欲しがるような機能を山ほど盛り込んだ究極のメールを開発させるのではなく、グーグルは機能が三つしかない段階でGメールをリリースし、顧客に『他に何が欲しいか』と聞いたのだ。きわめて迅速なフィードバックループであり、ひたすら反復を繰り返した。リンクトイン創業者のリード・ホフマンにもこんな名言がある。『製品のバージョンワンを恥ずかしいと感じないなら、出すのが遅すぎたということだ

● ザッポスCEOのトニー・シェイは専門性を重視し、「成長と学習の追求」を中核的な企業理念とすることで小売業界の破壊を推進してきた。「失敗は恥ではない。通過儀礼だ」というのは名言である(注15)。そしてトムズ・シューズCEOのブレイク・マイコスキーは、販売した靴の数だけ途上国の子供に靴を寄付するという方針を打ち出すことで、人々の目的意識を味方に付けた。  このような精神的支柱を持つグーグル、ザッポス、トムズ・シューズが、記録的な速さで業界のリーダーとなったのは意外ではない。自律性、専門性、目的意識をコアバリューとして会社をつくれば、急速な成長は必然となる。しかも、もはや他の選択肢はないのだ。加速度的に変化が進む世界に身を置くエクスポネンシャル起業家には、人間の第三の欲求をうまく生かすことが絶対に欠かせない。スカンクワークスを立ち上げなくては第三の欲求を引き出せない大企業と比べると、野心的起業家には強みがある。自律性、専門性、目的意識を後から無理やり植えつけるのではなく、最初から企業文化に埋め込むことができるから

● 10倍の改良というのはとんでもない目標だが、これほど高い目標を掲げるにははっきりとした理由があるという。 「10倍を目指すというと、10倍難しいことだと思われがちだ。でも実際には大きい目標を目指すほうが簡単なことが多い。直感的には納得できないが、何かを10%改良しようとすれば、それは自動的に現状を受け入れ、少しずつ良くしていくことを意味する。つまり現状から出発し、その前提条件をすべて受け入れ、きまったツール、技術、プロセスの制約の中で多少改善できればいいという話になる。自分自身も仲間も、世界中の他の人々と知恵比べをすることになる。それではどれほどリソースに恵まれていても、統計的には勝てる見込みはない。一方、ムーンショット型の発想をして、何かを10倍良くしようと思うなら、既存の前提を受け入れることは不可能だ。マニュアルは捨て、モノの見方を変え、知恵やリソースの代わりに勇気と創造力を生かすのだ」  重要なのは、この「モノの見方を変える」という部分だ。それはリスクテイクを促し、創造力を解き放つと同時に、どうしても避けられないマイナス要因に耐える力を与えてくれ

● 「データなければ死を」というのがグーグルXのやり方だ。すべてのプロジェクトは測定可能、検証可能でなければならない。進捗を測る方法がなければ、そもそもプロジェクトをスタートすることもできない。そして進捗状況は繰り返し評価される。打ち切られることもあれば、グーグル本体に吸収されたり、「保留」(継続は認められるが、規模拡大はできない)にされたりする。「個々のプロジェクトはかなり自由にやれるが、全体として見ればきわめて厳格なプロセスだ」とテラーは言う。

● 平均的な起業家にはグーグルのエコシステムのように同時に何十というプロジェクトを立ち上げたり、止めたり、保留にしたりといった余裕はないかもしれないが、複数の実験を並行して進め、素早い反復と厳しいフィードバックループによって「前のめりな失敗」を増やすことはできる。さらにテラーによると、こうした厳格な取捨選択のプロセスは資金調達にもプラスに働くという。 「野心的プロジェクトに資金が集まらないのは、野心的すぎるからだと思われがちだが、実際は違う。資金が集まらないのは〝測定不能〟だからだ。投資をしたのに10年も鳴かず飛ばずという状況は誰だって避けたい。常に進歩していることを示せれば、賢い投資家はとんでもないアイデアにも乗ってくる」

 

[法則1]ユーザーを第一に考えよ  これについては、ラリー・ペイジとリチャード・ブランソンが顧客中心の会社をつくることの重要性について語る第6章でさらに詳しく見ていく。

[法則2]すべてを共有せよ  知力あふれる超・接続状態な世界ではオープンな姿勢を貫き、イノベーションにクラウドの力を活用し、互いのアイデアの上に積み上げていくことが重要である。

[法則3]あらゆるところにアイデアを求めよ  本書の第部は、すばらしいアイデア、知見、製品、サービスをもたらすクラウドソーシングの可能性に目を向ける。

[法則4]大きく考え、小さく始めよ  これはシンギュラリティ大学のいう「109」思考の根底にある考え方だ。最初は小さな集団に影響を与える会社として出発しつつ、10年以内に10億人にプラスの影響を及ぼすことを目指す。

[法則5]正しく失敗せよ  素早い反復、「早く、たくさん、前のめりに失敗すること」の重要性だ。

[法則6]想像力で火をともし、データで加速せよ  機敏さはリニア型の大企業との決定的な差別化要因になる。そして機敏であるためには、斬新で突飛なアイデアと、価値あるものと無価値のものを選別するための優れたデータの両方が大量に必要である。今日最も成功しているスタートアップはまちがいなくデータドリブンな会社ばかりだ。すべてを測定し、機械学習やアルゴリズムを使ってデータを分析し、それにもとづいて意思決定を下している。

[法則7]プラットフォームになれ  時価総額10億ドルを達成している成功企業を見てみよう。エアビーアンドビー、ウーバー、インスタグラム。いずれもプラットフォーム企業だ。あなたの会社はどうか?

[法則8]重要なミッションを持て  おそらく最も重要なのは、あなたがつくろうとしている会社は世界を根本から変えるような目的に依拠しているかということだ。厳しい状況に追い込まれたとき、あなたは粘れるか、あるいは投げ出すか。進歩を推し進めるには情熱が不可欠だ。

● モチベーションについては、野心的な目標、価値観との整合性、そして自律性、専門性、目的意識という意欲を駆り立てる3点セットを見てきた。パフォーマンスについては、10倍目標を掲げることによる視点の変化でクリエイティビティが高まること、素早い反復によってリスクテイクが促進されること、そして迅速なフィードバックにより学習サイクルが短縮されることを見てきた。そしてプロセス全体のリスクを下げるのに、厳格な実験的エコシステムが有効であることを紹介した。だが、ここで重要な点を指摘しておきたい。  こうした心理的テクニックはただの寄せ集めではなく、いずれももう一つの機能がある。それはモチベーションやパフォーマンスを高めるだけでなく、「フロー」と呼ばれる心理状態を生み出すトリガーとなることだ

● フローは専門的には、自分が最高の状態にあると感じ、最高のパフォーマンスができる最適な心理状態と定義される。おそらくあなた自身も経験があるだろう。すばらしい会話に夢中になって気づいたら夕方になっていた、仕事のプロジェクトに没頭していて他のことをすべて忘れてしまった、といった経験があれば、フローを味わったことがあるわけだ。フローとは、何かに完全に没入し、他のすべてを忘れるほど目の前の仕事に集中している瞬間を指す。行動と意識が溶けあう。時間の感覚も、自我も消滅する。精神的、身体的なパフォーマンスはとんでもなく高いレベルに達する。

● フローは意識を集中することから生まれるが、重大な結果には当然意識が向く。目標が大きいと結果も重大になるため、大きな目標を設定することも集中力を高めるのに役立つといえる。価値観に沿った大きな目標を設定するというのはさらに効果的だ。価値観と目標が一致していると、情熱が生まれる。人は情熱を感じると意識を集中する傾向があるため、価値観と合致した壮大な目標も集中力を高めるのに効果がある。自律性、専門性、目的意識はどれもモチベーションや情熱を引き出すので、これも同じ効果があるといえる。

● 「フローに到達するには、リスクテイクに意欲的でなければならない。たとえば恋愛でフローに入るには拒絶されるリスクをとらなければならない。スポーツ選手なら負傷するリスク、場合によっては命を失うリスクを冒さなければならない。芸術家は批評家や世間からバカにされ、嘲笑されることも厭わず前に進まなければならない。そしてわれわれ普通の人間がフロー状態に入りたいと思えば、失敗すること、バカだと思われること、大コケすることを厭わない覚悟が必要だ

● こう考えると「前のめりに失敗すること」を信条とするエクスポネンシャル起業家には大きな強みがあることがわかる。失敗する度量のない者には、リスクをとる能力もない。フェイスブックのメインロビーには、こんな標語が掲げられている。「さっさと行動し、いろいろぶち壊せ」。このような考え方がとても重要だ。リスクテイクを奨励しないのは、この激変する世界についていく唯一の手段ともいえるフローへの入り口をふさいでいるのと変わらない。

● 没入 とは身体全体の意識を高めることを指す。同時に複数の感覚を通じて何かに集中することだ。モンテッソーリ教育の例を見てみよう。モンテッソーリの教室は地球上最も〝フローな〟環境の一つとされる(注23)。理由は体験しながら学習することを重視しているためだ。たとえば灯台について教科書を読むだけでなく、実際に行ってみて、自分でつくってみて学ぶ、という具合に。脳だけでなく同時に手を動かすことで複数の感覚器系を使い、目の前のことに集中しているのだ。

● 明確な目標 という一つ目のトリガーは、いつ、どこに注意を振り向けるべきかを示してくれる。高邁で達成困難な大きな目標とは違う。大きな目標が飢餓の撲滅や宇宙開拓といった大がかりな情熱を指すのに対し、明確な目標はそこに到達するまでの小さなステップの一つひとつを指す。こうした小さな目標(「サブゴール」とでも呼んでおこう)に意識を集中させ、フローを生み出すのに欠かせないのが明確さである。目標が明確であれば、何をしようか、次はどうしたらいいのか、と心が惑うことがない。すでにはっきりしているからだ。その結果、集中力や意識が高まり、余計な情報はフィルターで排除され、行動と意識が融合し、目の前の状況にさらに深く引き込まれる。それ以上に重要なこととして、目の前の状況に没入すると過去も未来もなくなり、われわれの意識を特定の瞬間に縛りつける厄介な自我も薄れる。

● 即時フィードバック という次のトリガーも、目の前の状況に集中するための手っ取り早い方法だ。これは因果関係がすぐにわかるように結びつけることだ。意識を集中させるメカニズムとしては、明確な目標の延長上にあるとも言える。明確な目標は「今何をしているのか」を、即時フィードバックは「どうすればそれをもっとうまくできるか」を把握するためのものである。リアルタイムに改善方法がわかれば、どうすればもっと良くなるのか、ヒントを求めて思い悩むこともなくなる。目の前の状況に完全に集中し、その結果、フローに到達できる可能性が高まる。

● これを事業の場で実践する方法は比較的簡単だ。フィードバックループをきちんと回すこと。アジャイルデザインを実践すること。注意散漫にならないようなメカニズムを設けること。他の人々からのインプットを求めること。どの程度のインプットかと言えば、四半期ごとではなく、日々レビューを受けることが重要だ。研究では直接的フィードバックが少ない職業(株価分析、精神医学、医療など)では、どれほど優秀な人々でも次第に劣化していく。一方、医者の中でも外科医は唯一、医学部を卒業して時間がたつほど能力が高まっていく。理由は失敗すれば誰かが死ぬからだ。これが即時フィードバックである。

● 発言するときは常に「確かにそうだね、それに……」で始める 。対話の相手と議論するのではなく、アイデアを互いに付加していくのだ。目的は互いのアイデアや行動をひたすら発展させていくことで勢い、一体感、イノベーションを生み出すことだ。このトリガーは即興コメディの大原則にもとづいている。「おい、トイレに青い象がいたぜ」と話の口火を切った相手に、「いいや、そんなものはいないよ」と返したら、まったく話が展開しない。否定することでフローを断ち切ってしまう。反対に「確かにそうだね、それに……」的な回答、たとえば「そうそう、悪いね、他に置き場がなくてさ。ヤツはまた便座のフタを開けっ放しにしていたんじゃないかい?」なんて返せばおもしろい話ができそう

ラリー・ペイジやジェフ・ベゾスと同じように、ブランソンも自らの企業グループを競争の激しいエコシステムのように運営する。一部の会社には存続を認める一方、一部の会社は消滅させる。そしてひたすら実験を繰り返す。自らのアイデアを素早く反復することに長けており、失敗した場合はそれ以上の素早さで手じまいする。全体としては500近い会社を立ち上げたものの、うまくいかなかった200社程度はすでにたたんでいる。  リスク低減の重要性もわきまえている。 「起業家は一見、リスク許容度が高そうだ。ただ私の座右の銘は『失敗に備えよ』。これはどんなビジネスパーソンも座右の銘の一つに加えるべきだと思う。たとえば航空業界に参入するというのは確かにスケールが大きくて野心的だが、われわれがボーイングと行った最も重要な交渉は、12カ月後に航空機を返却する権利に関するものだった。つまり爪先だけ水に入れて見て、自分たちの航空会社が大勢の人に気に入ってもらえるかを確かめられるわけだ。うまくいかなくても他の事業まで巻き添えにすることはない。音楽事業の経営陣と顔を合わせても、彼らには雇用を失うリスクがないので気まずくない。失敗に備えるのはとても重要だ。大胆な手は打ってもいいが、うまくいかなかったら脱出できる手筈は整えておかないとね」  ここまで読んで、ブランソンとマスクのリスクマネジメント方法は違うことに気づいたか

● 次に10倍のスケールに成長するものは何だろう。マスク、ブランソン、ベゾスと同じように、ペイジもその答えは長期的な思考と顧客中心主義の接点にあると考えている。  僕らはいつも長期的視点に集中しようとしている。クロームをはじめとするわれわれのサービスの多くは、開始当初はとんでもないアイデアと見られた。グーグルはどうやって取り組むことを決めているのか。本当にやるべき重要な仕事はどうやって見きわめているのか。私は「歯ブラシテスト」という言葉をよく使う。歯ブラシテストは簡単だ。 「このサービスを使う頻度は、歯ブラシを使う頻度より高いか」と自問するのである。たいていの人は1日に2回歯磨きをする。グーグルはそういうモノが大好きだ。たとえばGメールの使用回数は1日2回どころではない。ユーチューブも同じだ。こうしたサービスは本当にすばらしい。だがグーグルが最初にユーチューブを買収したとき、大勢の人に「あんなサービスで利益が出るわけがないのに、14億ドルも払うなんてとんでもない」と批判された。  確かに僕らには無鉄砲なところはあるが、投資としては大成功だった。4年前からユーチューブの売り上げは毎年2倍に増えている。倍々ペースで成長すれば、最初はささやかな金額でも急激に増えていく。僕たちの利益も急増していく。僕らの考え方は、誰もがしょっちゅう使うものは本当に重要であり、時間がたつにつれて収益化していくということ

● 「何を」より「なぜ」に集中する  製品でもサービスでも、「なぜ」を中心にストーリーをまとめるほうが簡単だ。それがどんなものか、どんな仕組みで動くのかといった説明にあまりこだわる必要はない。つまり内側の人間と外側の人間とでは見方が違うのだ。製品やサービスの開発に何年も費やしてきたのなら当然その細部、すなわち「何を」の部分にこだわりがあるだろう。だがそうした情報はおそらく聴衆の興味はそそらないだろう。むしろ彼らが聞きたいのは、あなたの製品、サービス、あるいはアイデアが自分たちの人生をどんなふうに改善してくれるのか、それが自分と世界にとってどんな意義があるのか、なぜクールで重要な存在といえるのかだ。説明や仕様ではなく、ソリューションや改善点といった観点からストーリーを考えよう。

DIYコミュニティーとは「世界に途方もない変化をもたらす目標 (MTP=massively transformative purpose)」の下に集う人々、心から支持するプロジェクトのために時間と知力を惜しみなく与える情熱を持った人々の集まりだ。無報酬で長時間働く。熱意を失うことはない。その活動に意義があり、重要だと感じるからだ。  一方、エクスポネンシャル・コミュニティーとは、特定のエクスポネンシャル技術(機械学習、3Dプリンティング、合成生物学など)に強い情熱を抱き、スキルや経験を共有するために結束した人々の集団である。

● 「私は長年DIYコミュニティーに身を置いてきたけれど、今でも驚くことが多い。コミュニティーが立ち上がると、衝撃的におもしろいアイデアが次々と生まれるようになる。それまで考えたことも想像したこともない方向性が出てくる。必ずと言っていいほど、そうしたことが頻繁に起こる。壮大な課題に立ち向かううえで、DIYコミュニティーが強力な武器となるのはこのためだと思う。事前に成功する方法を考えておく必要がないので、思い切った挑戦ができる。コミュニティーが道を示し、プロセスを加速させてくれる。その影響力たるや、すさまじいとしか言いようがない

● DIYコミュニティーをつくるべき人 「ニッチの法則」を思い出してほしい。インターネットは、誰も自分が思っているほどユニークな存在ではない、といういささか自尊心を傷つける事実をあぶりだした。これは喜ぶべきニュースだ。あなたが何かに情熱を感じるなら、ほかにも同じ情熱を持っている人たちがいる可能性が高い。だからDIYコミュニティーを立ち上げる一番良い動機は、胸に秘めた何かに対する〝報われない愛〟である。

●人がコミュニティーに参加するのはそれによってアイデンティティーを確認するためだが(次項を参照)、コミュニティーにとどまるのは対話をしたいためである、ということだ。最も成功しているコミュニティーがメンバー同士を交流させているのはこのためだ。コミュニティーが対話を促している。あなたが新たなコミュニティーを組織するなら、相互作用を活発にすることが最大の仕事になる(注22)。あらゆるコミュニティーの管理者が何よりもまず果たすべき役割は、対話の〝世話役〟である。クリス・アンダーソンはDIYドローンズを設立したとき、毎日3~4時間をコミュニティーの管理に充てた。簡単に言えば、あまり人付き合いが得意ではないとか、そんなことに時間をかけたくないと思うのであれば、おそらくコミュニティーをつくるのには向いていないだろう。

 


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