両利きの経営―「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く


2021年7月頃に読んだ書籍。2021年は、認知科学を学べたおかげで、両利きの経営が、本当に心に刺さりました。

なるべく自身・自社の既存の認知の範囲を超えて、遠くに認知を広げていこうという行為が 「探索」である。探索によって認知の範囲が広がり、やがて新しいアイディアにつながるのだ。しかし一方で、探索は成果の不確実性が高く、その割にコストがかかることも特徴だ。一方、探索などを通じて試したことの中から、成功しそうなものを見極めて、それを深掘りし、磨き込んでいく活動が「 深化」である。深化活動があるからこそ、企業は安定して質の高い製品・サービスを出したり、社会的な信用を得て収益化を果たすことができる。”

2021年に通ったMindset Coaching Schoolでも、以下のようなことを学んでいました。

・人間にはRAS(脳のシャッター機能)という機能がある。
・RASによって「自分とって重要なもの(自我にとって・バイタルに関わる)」の情報を入力している。
・RASによって入力する世界以外を「スコトーマ」という。
・RASはコンフォートゾーンに対して働くので、コンフォートゾーン以外はスコトーマといえる。

つまり、人間(個人)は、その特性上、認知できていない盲点が、常に存在している。これは、企業(法人)にも当てはまるということ。

”この両利きという概念は、一九八〇年代から行われてきた認知心理学の研究から出てきたものだ。もともと人間の認知には限界がある。人間である以上、これは避けられない本質だ。広い世界の中で、人間が認知できるのは目の前の一定範囲に限られ、そこにあるものだけで世界が構成されているように考える傾向がある”

実際に、本書にも、認知心理学に、その系譜があることが記載されている。

””しかし、現実の世の中には、認知の範囲外にもっと多くのより良い選択肢があるかもしれない。特に環境変化が起きたり、新しいことを試みようというときには、狭い範囲の考え方から脱してそれらの新しい知見に触れない限り、イノベーションを起こすことはできない””

””成功すればするほど深化に傾斜しやすい。そもそも自分たちの認識の外に出ようと試みるのは、「自分たちが考えていること、やっていることが間違っているかもしれない」という疑いを持つからだ。逆にいえば、ひとたび成功して「自分たちのやっていることは正しい」と認識すると、自分の認知している世界に疑念を持たなくなる。そこから抜け出せなくなるのだ。  このように、成功しているほど知の深化に偏って、結局はイノベーションが起こらなくなる状況は、「サクセストラップ(成功の罠)」と呼ばれる(図0‐1)。なお、これは「コンピテンシートラップ(競争力の罠)」と呼ばれる場合もある””

成功すればするほど、スコトーマ、盲点に囚われやすい。これは人も組織も似ているな、と。

2021年を通じて、多種多様なチャレンジをしながら、組織の数が増えてきて、トップマネジメントとして、どういう行動、決断をしていくべきか、向き合い続けて来たのだが、ある程度の規模にまで会社を育て上げたあとは、いかに、探索と深化を両立させられる組織を創るか、その文化を創るか、というところが、キーになって来るのだろうなと改めて向き合うことが出来ました。

””ベゾスは語る。「ゆっくりと安定的に進んでいけば、時間とともに、どのような挑戦にも食い込んでいける。(中略) 私がすべてのアイディアを持っているわけではない。それが私の役割ではない。私の役割は、イノベーションの文化を構築すること””

”企業文化の重要性を旗印にすることだと、ベゾスは即答している。「発明と変革をし続け、新しいことを築くというアマゾン規模の企業は、文化を持つ必要がある。(中略) ワクワクしながら実験し、実験に報いる文化で、失敗につながりそうだという事実さえも受け入れる。(中略) 長期志向もその一部となっている。この四半期に何もかもに取り組まなければならないとすれば、それは定義上、たいして実験するつもりがないということ。”

”ベゾスの見解によると、アマゾンの共通の文化規範は、あくなき顧客重視、実験への積極性、倹約、政治的な行動をしない、長期展望などである。これらは、完全に異なるユニットにまたがって、社内の人々を一つに結束させるのに役立っている”

もっともインパクトを与えられる領域に、いかにして自分の時間を使っていくべきか向き合い続けている中、両利きの組織を実践するリーダーシップの原則が参考になりました。

① 心に訴えかける戦略的抱負を示して、幹部チームを巻き込む。 ② どこに探索と深化との緊張関係を持たせるかを明確に選定する。 ③ 幹部チーム間の対立に向き合い、葛藤から学び、事業間のバランスを図る。 ④「一貫して矛盾する」リーダーシップ行動を実践する。 ⑤ 探索事業や深化事業についての議論や意思決定の実践に時間を割く。

以下、引用。

”探索では間違いから学んでいくので、エラーをコントロールすることは求められていない。フィードバックとフィードフォワード(機会を予測すること) とのバランスのとり方を、幹部チームは学ぶ必要がある ★ 9。  フィードフォワードでは抱負を起点に、何が可能なのか、自社はどのような機会が生み出せそうかを考えていく。

”成長に向けて感情移入のできる抱負を定める。第7章で挙げたリーダーシップの話に基づくと、受動的な変革の動機づけとなるのは、危機やそれに伴う恐怖感だ。しかし危機がなくても、他のところから感情的エネルギーが湧いてくる必要がある。戦略的刷新の動機づけとして、企業全体のアイデンティティにつながる、感情に訴えかける抱負が用いられる。成功している刷新事例には、企業戦略とともに、「自分たちは何者で、何をするのか」を規定する抱負が結びついている。”

希望は損失よりもはるかに説得力のある動機づけ要因であり、恐怖感という衰弱を招く効果を伴わない。しかし留意したいのが、従業員が重視していることと抱負が響き合っていなければならない

”抱負は短い言葉で、感情に訴えかけ、企業戦略に直接結びつき、幹部チームがオーナーシップを持って取り組めるものがよい。それから、抱負そのものは単なる言葉にすぎない。トップが率先して、折々に情熱を込めて語ることが大切だ”

感情に訴える抱負と逆説的な戦略課題(探索と深化) によって、戦略的刷新の取組みに活気が出てくる。実行しながら学び、大きなコミュニティの中で学習したことを共有し、幹部チームの監督下で進めていけば、社会的気運が生まれる。これは、先を見越した断続的な変革にとって非常に大切なことだ。

両利きの経営をいかに実現するか。ここでやっかいなのは、深化し漸進的な改良を行うことに適した組織能力と、探索し創造する組織能力との間には、水と油のような関係性がある点だ。組織特性でいえば、前者は同質的で連続性を持った組織体、後者は多様性と非連続性を前提とした組織体と相性が良い。

【目次】

解説 なぜ「両利きの経営」が何よりも重要か 入山章栄

はじめに  
第1部 基礎編-破壊にさらされる中でリードする 
第1章 イノベーションという難題
第2章 探索と深化
第3章 イノベーションストリームとのバランスを実現させる

第2部 両利きの実践-イノベーションのジレンマを解決する
第4章六つのイノベーションストーリー
第5章「正しい」対「ほぼ正しい」

第3部飛躍する-両利きの経営を徹底させる
第6章両利きの要件とは?
第7章要としてのリーダー(及び幹部チーム)
第8章変革と戦略的刷新をリードする
解説 イノベーションの時代の経営に関する卓越した指南書 冨山和彦